赤いベンチのあるお店

ちょっと昔話、その4です。

店の名前はJazz Barなのに何故か『色』のひとつを意味するフランス語かイタリア語?英語で無いのは確かだが何度聞いても忘れる、アルコールのせいにしょう(笑)なのに店内は黒い壁にカウンター、椅子に貼られた革の茶(薄暗い店内では全部黒く見える)、白いコーヒーカップ、銀の大きな冷蔵庫。Jazzの古いレコードジャケットだけがカラフルだ(笑)
それと唯一の赤、お店の前に置かれた真っ赤なベンチ。この真っ赤なベンチがお店の特等席で、店内が空いていても二人が座ると窮屈なベンチはいつも混んでいる(時がある)。オープンカフェとは違う、ただの軒下の赤いベンチ。だからテーブルは無い(笑)
このベンチに座るにはいくつかの暗黙のルールがあって、
1、新参者は座れない。
だって、飲み逃げされる(笑)
2、大きな声を出して騒がない。
3、煙草のポイ捨て禁止、マイ灰皿推奨。
4、花火禁止。
5、セルフサービス
きっと常連さんは花見だ、月見だと一年中外のベンチでお酒を呑んでいるのだろう。確かに火照ったからだを冷ましたい時もあるが、長居はしたくない。あゆむからはベンチの許可は出ているが、外に出ると話し相手が居ないし(涙)テーブルも無い(笑)このお店ではまだあゆむと他力本願君としか話した事が無いからだ。あゆむはお店があるから外に出れないし、他力本願君もあゆむとの会話が目的だから外に出たがらない。そのクセに人には外に出たら、とやたら進めてくる。君の魂胆はわかっているよ!此処にいる、あゆむは私が守るのだ(笑)
ベンチに座る機会は早くやってきた。お店がヒマであゆむは髭のマスターと交代してもう帰っていたし、他力本願君も居ないし長居せず家に帰る事にした。扉を開けると外のベンチにはネタバラし君が横になって、缶ビールの空き缶に煙草の吸い殻をネジ込んでいた。
開店前のベンチに横になって推理小説を読んでいた彼を一度見たことがある。こっちに気付くと隣を空けてくれて、同時に他力本願君もやってきた。(これで二人きりは避けられた)彼はそのまま飲み物をもらってくると言って店に入り、暫らくしてそれぞれの飲み物を持って戻ってきた。「いらっしゃいませ」違うって(笑)
手の中のコーヒーが冷めるまでの間、三人での会話を交わし二人に別れを告げた。「ごちそうさま、おやすみなさい」
駅に向かう途中で気が付いた…、これって食い逃げ?(涙)
ここから思い出には、必ず赤いベンチがついてくるようになった。

「おやすみなさい、だって」
「ごちそうさま、だって」
「俺もごちそうさま」
「え〜」

つづく…、て言うかここからが始まりだ(;^_^A