眠れない夜・後編

ちょっと昔話、その10 後編です。

「俺っていい人?」
「二年も通っているなら、やらせてもらえば?」
「おまえが言うな〜!切っ掛けを逃しちゃって、それにその時は彼女もいたし…、」
「それ聞いた!」
彼女が後々教えてくれたんだけど、彼氏がDVで、もう1人がパパで、どちらとも色々あって大変なんだって。それと、いつもやってくる訳ではないんだ。2ヶ月に一回とか、4ヶ月も来ない時もあるし、ベッドに入らず隣に座って泣いて30分位で帰る時もあるし…。あっ!泣いてる時か、泣きたい時しか来ない。彼女に逢いたい時もあるんだけど、彼氏が二人もいると彼女の部屋で鉢合わせになる可能性もあるから行けないし、逆に俺の部屋で俺の彼女と鉢合わせるってのも怖いよ。
「確かに添い寝だけと言っても信じないと思うよ!他力君の言葉を信じても、そんな変な彼女との関係を知ったらつらいよね(彼女の部屋に行く目的はなんなの?)」
「パジャマを脱いだら、全身アザだらけってのも怖いし」
「…、(脱がせたらでしょ)」
最初は俺が守ってあげなきゃとか思っていたけど、今は面倒な事に巻き込まれた感じで、本当に面倒くさいし怖い!添い寝だけだとしても二人の彼氏にばれて逆恨みされて、夜道にいきなり後ろから刺されるとか…。今まで何回か駅からマンションに帰る時に、誰か後ろからつけてくる様な気もする時もあったし…、
(「しても」って変な日本語だぞ、本当は何かしてるだろ?)
「まぁ、お大事に。後ろから刺されないようにね!」
「なんだよ、冷たいなぁ〜」
その日の会話はそれで終わったが、他力君が後日談を教えてくれた。
しばらく彼女を見てないなぁと思っていたら、現われたんだよ例の二人組が。駅の改札を抜けたら男が二人立っていて、俺を見つけると「他力さん」と声をかけて寄ってきたんだ。最初は誰か解らなくて「彼女の事で…」この二人組が誰か気付いた時には完全に逃げるチャンスを失っていた。
「彼女が何処に引っ越ししたか、他力さんなら知ってるかなっと思って。突然に居なくなって困っているんです」
「えっ、知らないですよ。引っ越した事も今はじめ知りました」
二人には嘘ついた、冬だというのに全身から汗が湧き出てくる。どうやら顔はばれていたようだ、知らなければ待ち伏せはできない。それに「他力さんなら」って言葉がこちらは全部知ってると韻を含んで聞こえる。この二人もお互いに今日初めて会った雰囲気でもない、お前ら仲良くつるんでんじゃないょ!お前らのせいで彼女がどんなに苦しんでいるのか知っているのか?って言ってやりたかった(;^_^A
その瞬間から彼女とはもう会えない気がした。せっかく逃げ出したのに、俺が会いに行ってつけられたりしたら台無しだ。二人でいる処をもし見られたら、今度は本当に刺されるかもしれない…(かも)。さっきかいた汗が一気に体温を奪っていった。

「結局、彼女の笑った顔は一度しか見てないよ。元気にしてるかなぁ?」
「大丈夫だって!彼女にとっては枕を替えたぐらいの事で、今ごろは新しい枕を見つけているよ」
「俺って枕なの…(涙)」
「古い枕!」

おわり